作り手
今回お伺いさせていただいたのは、信楽のしんにょ陶器さん。鴻月でも人気の茶香炉やコーヒーカップ、定番のたぬきの置き物などを販売させていただいております。この記事を読み終える頃には、信楽焼、いや陶器の世界に魅了されるかもしれません。ぜひ続きをご覧ください。
作り手 | 『信楽焼 田村静夫』 |
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お話を伺った方 | 田村 静夫さん |
お取り扱い商品 |
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陶芸35年の田村さんのこだわりとは?
最初に田村さんにお伺いしたのはご自身のこだわりについて。すると即答で、「信楽の土100%で、それ以外の土は使わないこと」とキッパリおっしゃられました。信楽焼なんだから信楽の土なんて当然でしょ?と思われる方も多いと思いますが、実はそうではありません。別の地域から土を持ってくる作り手の方も少なくないのです。
いろんな地域の土を使ってきた田村さんは、信楽の土と出会ってその魅力の虜となったそうです。今では時々、山を歩いて土を探すこともあるそうです。信楽の土の何が田村さんをそこまで惹きつけるのでしょうか?
信楽の土の魅力
信楽といえば、巨大なたぬきを想像される方も多いかと思いますが、たぬきも含めて、信楽焼は壺や水瓶など、大ぶりのものが多いです。これは信楽の土がこれら貯蔵用の壺や水瓶にぴったりだからと言われています。それがよくわかるエピソードを伺いました。
田村さんの作業場の玄関口には少し大きな壺があります。ある冬、そこに折れた桜の枝を入れて保管していたそうです。すると真冬の2月にもかかわらず、突然咲き出したのです。
あとからわかったことですが、これにはちゃんとした化学的な根拠があって、壺の中の水が壺から出る気泡の影響を受けて、より細かい分子と変化します。その細かくなった水の分子は植物からすると吸収しやすく、通常以上に水を吸い上げた結果、真冬にもかかわらず開花したのです。
田村さんは「土は自然の恵みと感じた瞬間でもありました」と言われ、こんな話もしてくださいました。土というは何千年、何万年と地球ができてから堆積してきたものから成ります。
どこには木々や葉などの植物から、私たち人間を含む動物、さらに水や地熱などの自然エネルギーまで含まれます。そうしたこの世のあらゆるものが積み重ねられているからこそ、手に取った時に不思議と安心したり、心が落ち着くのだそうです。
小さい子供がずっと砂遊びをしていられるのも、ガーデニングや砂浜で過ごす時間など、土に直接触れる時間はご先祖様との触れ合いの1つと考えることもできるのです。
こうした自然の偉大な恵みだからこそ、田村さんはそれを損ねるような余計なことをしないようにと普段の物づくりから心がけているそうです。一方で、田村さんがどう扱って良いかわからない土との出会いもあるそうです。
そんな時は、また5年、10年と経験を重ねた時には扱えるようになっておこうと思い直すそうです。こうした土をお皿や壺など、何かの形にしていくという奥深い陶芸の道を探究していくことそのものが田村さんのライフワークでもあるそうです。
さらに田村さんは陶芸に生まれつきの天才はいないということも興味深いことの1つです。どういうこと?と思われるかもしれませんが、土から造形していくことはセンスも関わってきますが、焼きに関しては経験を積んでいくしか腕を磨く方法はないということです。
1300℃の高温で焼かれる土が窯の中でどのように変化をし、どう焼き上がるのかは実体験でしか学べないことなのだそうです。1つ1つの作品と、1回1回の焼きの工程と心から向き合い、少しずつ学んでこられたそうです。
例えば、焼きの最中に強い熱が土に加わることで土は柔らかくなるので、当然重力に負けて元の形から変形してしまいます。この加減をどう捉えて、表現していくかが技量の1つでもあるそうです。
土、火、こういった自然が相手のものだからこそ、なかなか自分の思い通りのものができないからこそ、陶芸はおもしろく、探究する価値のあるのだそうです。
こうした試行錯誤の末に、思い通りのものができ、手に取る方にも喜んでいただける瞬間は何事にも変え難いのだそうです。
陶芸への愛情が強い田村さんの作品はプロの料理人から厚い信頼を寄せられているそうです。料理合うお皿を一緒に考え作ったり、また田村さんのお皿を見て、こんな料理を作りたい、これを使ってこんな盛り付けをしたいと料理人のインスピレーションにもなっているそうです。
田村さんのお話を伺って、実際にいろんな陶器を拝見し、控えめに言っても感動しました。今後も陶芸の道の探究を続け、どんな土が目の前にあっても良いものが作れるようになりたいとおっしゃる田村さんは、釜の中の火のような熱量でした。
ぜひ田村さんが作る本物の信楽焼を手に取ってみてください。